西アフリカ旅行記…①トーゴ入国編、②トーゴ観光編、③ベナン入国編(本編)、④水上村観光編
目下の生活に厭な雲があり、旅行記を書き上げるのが三ヶ月も遅くなってしまった。前回の記事ではトーゴの首都・ロメを探索したが、この記事ではベナンに向かい、事実上の首都であるコトヌーに到着した記録を綴る。
トーゴ・ベナン国境を目指して
トーゴの首都・ロメはガーナと国境を接しているから、ベナンとの国境に辿り着くまでに時間がかかると思うかもしれないが、実は両者はかなり近い距離にある。
まず、トーゴは縦に細長い国で、南北の最長距離が700kmあるのに対し、東西はわずかに50kmである。同時に、西アフリカの都市は多くが海岸線沿いに位置しており、その中間を結ぶ沿岸道路もそれなりに整備されているので、主要都市間のアクセスは悪くない。
ロメから海岸沿いの幹線道路をしばらく進むと、片側2車線の道路のうち、なぜか1車線しか使えなくなっていた。進んで行くうちに原因が車両の正面衝突事故だったことが判明したのだが、ドライバーは陽気な笑顔で「メニメニピーポォ、ダーィド(人がたくさん死んだぜ)!」と述べており、この国では人命の重みがどれほどの意味を持つのかが一気に分からなくなった。
ロメから2時間ほどでベナン国境に到着した。設備はガーナ・ベナン国境よりもよく整備されている印象で、なおかつ地域住民が容易にアクセスできる環境ではないので、案外円滑に出入国手続が行われているようである。
てっきりアライバル・ビザしか取得できないものだと思っていたが、実はベナンはeVisaの事前申請以外に受け付けていないことが判明した。そこで、外国人向けの申請代行で小銭を稼いでいる民間人の若いお兄さんに頼み、その場でビザを取得してもらった。価格は30日間のマルチプル・エントリーで約1万円である。両
国の当局者もきちんと働いており、特段のトラブルもなくベナンに入国できた。トーゴもベナンも同じフランス語圏の国であり、通貨も同じものを使っているからか、英語圏で自国通貨を使用しているガーナの国境よりも、当局者の間で警戒意識が薄いのかもしれない。
国境からコトヌーへ
国境を通過したあとは、ベナンの事実上の首都であるコトヌーに向けてひたすら沿岸を走り続ける。海岸沿いではずっと街並みらしきものが広がるトーゴとは対象的に、ベナンに入ってしばらくは、どこまでも続く地平線、まばらな人家、そしてヤシの木しか目に入らない。その人家も茅葺きの非常に簡素なもので、南国的な自然の風景と相俟って、本当に遠くへ来たという実感が湧く。それは深甚な旅情と孤独の融合である。
しかし、次第にトラックや長距離バスの交通量が増えてきて、西アフリカの主要都市が連結していることをひしひしと感じさせられるのが面白い。
この辺りでは過積載に関する危機意識が薄く、今にも崩れ落ちそうなほど丸太を載せたトラックなどはよく見かけるのだが、車窓を眺めていてとりわけ面白かったのが画像の車である。
自家用車の上部にみかんを積み上げているばかりでなく、後部座席の隅から隅にまで詰め込んでいる。運転手は柑橘の香りが充満する車両をどのように感じているのだろうか。彼が梶井基次郎のような人間であれば、自分の車が衝突して車じゅうの蜜柑が炸裂する様を想像し、愉快な気持ちに浸っているかもしれない。
コトヌーに到着する頃にはすっかり日が暮れていたが、市内の広場を煌々と照らすイルミネーションが目に入った時の感慨はたまらなかった。遠い遠い地の果てを走り続けたあとに辿り着いた都市は、世界のどこにでも人間の営みが存在しているという当たり前の事実を決定的に教えてくれるし、その明るさと賑わいがもたらす安堵は絶大なものである。
中学生の時に現代文で習った芥川龍之介の「トロッコ」という短編では、児童がトロッコの線路を続くままに一人で辿るうちに恐怖に駆られ、日が暮れて家に辿り着いた時には安心して大泣きするが、まさにその感情がよく分かった。
市内のホテルにチェックインしたあと、在留邦人の方々数名に誘っていただき、併設のレストランでフレンチを食べた。天井が高く、居心地のよいお店で、何より食事が美味しかった。パンの付け合わせで出てくるバターがフランス製なのには驚いたが、一緒に食事した方によると、当地は旧フランス植民地だけあって、フランスの輸入食品を専門的に販売するエレヴァンというスーパーもあるという。フランスが植民地支配を通じてベナンに残したものは、美味への渇望なのかもしれない。
翌朝、一緒に食事した在留邦人の方が販売されているドーナツを、揚げたての状態でホテルに届けていただいた。クリスピー・クリーム・ドーナツの油を減らして軽くしたような生地に、レモンやチョコレート、ハイビスカスといった甘さ控えめの味付けが施されていて、これまで食べたドーナツの中で一番美味しかった。前夜の食事会もこの朝のドーナツも、忘れがたい暖かな旅の思い出となっている。
次の記事では、旅行記の締めくくりとして、コトヌー郊外の水上村を訪問した体験を綴る。
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